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岡山地方裁判所 昭和50年(わ)109号 判決

本籍

浅口郡寄島町一三、一五九番地

住所

同右

会社社長

斎藤静波

昭和二年四月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官田井正己出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役五月及び罰金二〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算して被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岡山県浅口郡里庄町大字里見字手ノ際三、九五九番地において、教育図書および小学校家庭科補助教材等の製造販売を営んでいるものであるが、所得税を免れようと企て

第一  昭和四六年一月一日から同四六年一二月三一日までの所得金額は一三、八八二、八六三円、これに対する所得税額は四、八九四、一〇〇円であるのに、売上げの一部および貸付金の利息収入の一部を除外し、偽名により商工債券を取得するなどの行為により所得の一部を秘匿したうえ、同四七年三月一五日所轄の倉敷市玉島阿賀崎六六六番地玉島税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、二一五、二五一円でこれに対する所得税額は七九、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税四、八一四、八〇〇円を逋脱し

第二  同四七年一月一日から同四七年一二月三一日までの所得金額は一九、六六八、四八六円、これに対する所得税額は、七、九二七、七〇〇円であるのに、前同様の方法により所得の一部を秘匿したうえ、同四八年三月一四日所轄の前記税務署長に対し、所得額は二、四六八、四一九円でこれに対する所得税額は一〇五、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税七、八二一、八〇〇円を逋脱し

第三  同四八年一月一日から同四八年三月三一日までの所得金額は一九、八二六、七二九円、これに対する所得税額は七、九四二、一〇〇円であるのに、前同様の方法により所得の一部を秘匿したうえ、同四九年三月一四日所轄の前記税務署長に対し、所得額は三、八六四、六一八円でこれに対する所得税額は三四三、三〇〇円(上記税額については計算間違いがあり、改めて同四九年五月二九日所得税額は三四七、七〇〇円である旨の修正申告書を提出)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出しもつて不正の行為により所得税七、五九四、四〇〇円を逋脱し

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の

1  当公判廷における供述

2  検察官に対する供述調書二通

3. 収税官吏に対する質問てん末書五通

斎藤博子の

1  検察官に対する供述調書

2. 収税官吏に対する質問てん末書三通

3. 答申書二通

一、松浦嘉広の

1. 検察官に対する供述調書

2. 答申書

一、東洋綿業株式会社取締役社長依藤輝一、中国銀行鴨方支店長黒岡保、笠岡信用組合長関藤友八各作成の各証明書

一、佐藤八郎、内田洋子各作成の各上申書

一、収税官吏岩崎巌(二通)、同光原博、同杉ノ原剛(二通)各作成の各調査事績報告書

一、検察事務官作成の報告書

一、被告人作成の所得税の青色申告承認申請書謄本

一、青色申告の取消し決議書謄本

一、収税官吏作成の脱税額計算書三通

一、押収の所得税確定申告書綴、青色申告者書類綴、売掛帳(昭和四四-四七年)、売上帳(昭和四五年)、売上帳(昭和四六年集金用)、売上帳(昭和四六年)、総勘定元帳(昭和四六年)、総勘定元帳(昭和四七年)各一冊、支局用請求書九九冊、領収書控支局用、仕入帳、買掛帳各一綴、信認金関係書類入封筒一袋、信認金利息計算書、学習研究社信認金利息計算書各一綴、保有資産残高メモ一枚、総勘定元帳(昭和四七年)売掛帳(昭和四八年)、売上帳(昭和四七年)、売上帳(昭和四七年)、売上帳(昭和四七年の家と表示)各一冊、領収証控綴九綴、総勘定元帳(昭和四八年)四冊、売上帳(昭和四八年a)一冊、雑書類一袋、領収証控綴三綴、領収証一綴(以上、昭和五〇年押第六〇号の一ないし四〇)

なお、右証拠にもとづく脱税額算出過程は

一、収税官吏作成の脱税額計算書説明資料

のとおりである。

(法令の適用)

判示各事実 各所得税法二三八条一項(懲役刑と罰金刑とを併科する。)

併合加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項(懲役刑については判示第二の罪の刑に加重する。)

換刑処分 刑法一八条

懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件所得税法違反の事実につき、広島国税局は昭和五〇年二月二五日岡山地方検察庁に対し告発しているところ、被告人は、右告発以前である同年一月一七日までに本件各年度につき正当な所得額を修正申告したうえ、所定の所得税を納付しているのであるから、右修正申告したことにより国税通則法一九条、二四条の規定に従い各年度の確定申告期限に遡つて、当初の過少申告が正当な修正申告額に変更修正されたと解すべく、従つて本件所得税逋脱の犯罪は成立しないこととなるから、被告人は無罪である、と主張する。

しかし、偽りその他の不正の行為によつて税を免れようとして、納税義務不履行のまま法定の納期を徒過すれば、直ちに逋脱犯が成立するのであつて、後日納税義務者が正当な税額に修正する旨の申告をしたとしても、これによつて遡つて、右犯罪が消滅するに至るものとは到底解しがたいから、右主張は採用できない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口貞)

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